「中東社会史班」は、去る12月2日に東京大学本後キャンパスで、ポピュラー・カルチャーに関連する二つの研究発表を軸とする研究会を実施した。この分野は、日本の中東研究において最も研究の立ち後れている分野の一つと考えられ、今後の研究推進が強く望まれる分野でもある。 まず、保坂修司氏(近畿大学)が、「アラブ世界における日本のアニメ・マンガの影響」と題して発表された。これは、近年特にペルシア湾岸地域を中心に、インターネットの普及と相俟って、日本の「アニメ」が若者たちの間を席巻している様子を、画像も丁寧に添えて詳細に報告されたものであった。さらに「オタク」文化も含め、中東における日本アニメ文化展開の一部には、イスラーム主義のネット技術者の参画した痕跡する窺えると言う。この問題はさらに、中東諸国のナショナル・アイデンティティとグローバル化、イスラームとの関連、女性の参画、など様々な問題とリンクしてこよう。 質疑では、現実の中東社会における電脳情報へのアクセスの不均衡や地域差も問題とされた。
 一方、鈴木恵美氏(東京大学東洋文化研究所)は「エジプトのマンガ雑誌に見る児童教育」と題して報告された。これは、カイロ発刊された『フラッシュ』という雑誌に連載された「ムラーティン・マトフーン(ひらかれた国民)という漫画を素材にして、「エジプト人論」やエジプトにおける漫画の受容などに光をあてようと試み意欲作であった。
 質疑では、アラビア語(文語・口語)の問題、国民統合の手段としてのアニメ・漫画、若者のナセリスト的スタンス、物語の系譜などについて質問が相次いだ。今後の同氏の研究によって、この漫画がエジプト社会で実際に、どの程度誰に、どのようにして読まれている(/ない)のか、若者の経験と意図などが、明らかにされてゆくことと思われる。
 研究会には、若手やベテラン、アラブ人研究者など、多彩な方々が、かなりの熱気をもって参加下さった。予定を超えて、懇親会まで議論は尽きなかった。
                     (文責・大稔)

3回目: 「中東社会史班」第1回研究会
日時: 2006年12月2日(土) 14:00〜17:30
場所: 東京大学東本郷キャンパス・法文1号館216室
講演者・講演題目:  保坂修司(近畿大学教授)
          「アラブ世界における日本のアニメ・マンガの影響」
          鈴木恵美(東京大学東洋文化研究所非常勤講師)
          「エジプトの漫画雑誌にみつ児童教育」